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小説第四十二作目『爆砕牙』


「ンッ? どうも始まりそうだな。どれ、よっこいしょ、見届けに行くか。」

 
「猛々、済まんが、ちょっくら、あいつらの処へ行ってくれ。ン~~判ってるだろうが、あの犬の馬鹿兄弟の処だ。思ったより早く始まるようなんでな。」

黒雲たなびく中、ゴロゴロと轟音が響いたと思った次の瞬間、稲光と共に出現したのは、御存知、三つ目の妖牛、猛々に跨った刀々斎。
刀を鍛える大槌を携えている姿が、如何にも刀鍛冶らしい。
かごめや弥勒、珊瑚、七宝や、りん、邪見、琥珀の驚きを他所に、惚けた風貌のまま、大して驚いた様子もなく、大きく円形に抉り取られた地面を見詰めてボソボソッと呟く。

 
「ああ、始まったな。鉄砕牙と天生牙・・・間もなく一本の刀になるぜ。」

 
  夢幻の白夜の怪しげな幻術で、踏みしめていた地面ごと何処かへ連れ去られた犬夜叉と殺生丸。
  かごめや弥勒達には見えなくとも、刀々斎には、今、何が行われているのか手に取るように判る。
  何しろ、鉄砕牙、天生牙、共に心血を注いで鍛え上げた己の最高傑作。謂わば、あの刀の生みの親。
  刀の素は、通称、『犬の大将』または『お館様』と呼ばれた、殺生丸と犬夜叉の父である大妖怪、闘牙王の牙。
鉄砕牙も天生牙も犬の大将の形見。両刀は、大将の分身。
刀の意思は、即ち、今は亡きお館さまの意思。そして、それは、当然、刀を鍛えた刀々斎にも伝わってくる。
・・・・遂に、元の一本に戻るか。犬の大将が、この世を去って既に二百年の歳月が経っている。
当時、犬夜叉は、まだ生れたばかりの赤子、殺生丸も、まだ少年の域を出ていなかった。
一振りで百の妖怪を薙ぎ倒す鉄砕牙、当然、兄の殺生丸が、欲しがったが、お館さまの目論見は別の処にあった。
大将の配慮のままに鉄砕牙は、赤子の犬夜叉の右目に黒真珠に封じて隠され、天生牙は、殺生丸に譲られた。
その兄弟剣とも云うべき二振りの刀が、同じ様に因縁の兄弟の闘いによって、今、一つになろうしている。
良く決断したな、殺生丸。尤も、お前の事だ。
どうせ、自分の物にならない技など持っているだけ無駄と判断したんだろうが。それでも、お前なりに苦渋の決断だったろう。
何せ、冥道残月破は、お前が苦労して育て上げた技。
それを犬夜叉に、そっくりそのまま、くれてやろうってんだ。
だがな、それによって、お前は、もっと大きな物を得る事になる。
真の大妖怪に相応しい資質を、あの親父殿をさえ凌ぐ程の実力を手に入れる事が出来るんだぜ。
ああ・・・伝わってくる。この波動。間違いない。
鉄砕牙と天生牙、兄弟の刀は、今、この時、一つに融合した。

 
「今・・・ひとつになった。」

 
  ドン! 待つほども無く、空中に巨大な黒い冥道が出現した。
  冥道から零れ落ちた一筋の光。キラッ・・・陽射しを弾いて落ちていく。
  (光・・・? いや・・・あれは・・・)
  黒い刃の鉄砕牙を握り締めた犬夜叉が、殺生丸が、姿を現した。
犬夜叉は、随分、ボロボロになってるな。
兄貴の方は、いつもと変わらず涼しい顔をしてやがる。
着衣ひとつ乱さず、まるで、散歩のついでにチョイと出向いて来たって風情だぜ。どれ、声を掛けてみるか。

 
「殺生丸。お前なりに納得できたかい?」

 
「もはや、興味はない。行くぞ、邪見。」

 
  すぐさま踵を返して、一刻も早く、この場を立ち去ろうとする殺生丸を呼び止める。

 
「あれ・・・持ってけよ。冥道の中から落ちてきたんだ。」

 
  刀々斎が、顎をしゃくって指し示す先には、天生牙が地面に突き刺さっている。
  ズボッ・・・地面から抜き取った天生牙を殺生丸に差し出す。

 
「尤も、これは、最初の頃の斬れない刀・・・癒しの天生牙だがな。」

 
「それで・・・? それを持って人助けをして廻れとでも云うのか。」

 
「ふざけるな。」

 
  捨て台詞と共に、もう、用は無いとばかりに、振り返りもせずに、足早に立ち去っていく殺生丸。

 
「オ――――イ。」

 
  呼びかけてるのに立ち止まりもしない。全く、相変わらず気が短い奴だぜ。
さて、どうしようか。そう思ってたら、妙に可愛らしい声が聞こえてきた。
おや、こりゃ、殺生丸が連れて歩いてる人間の嬢ちゃんじゃねえか。
前に逢った時も、思ったが、如何にも素直で、無愛想なあいつとは似ても似つかんわい。
見た処、顔艶も良いし、こざっぱりした形(なり)で、チャンと面倒を見て貰ってるみてえだな。
あいつに子育てが出来るとはなあ。
まあ、どうせ、邪見あたりに何もかも丸投げしてんだろうがよ。
それにしても、変われば変わるもんだぜ。
あんだけ徹底した人間嫌いがなあ。

 
「あの―――。」

 
「ん?」

 
「御機嫌が直ったら渡しとくね。」

 
  そう言って、ちっこい身体で、自分よりも大きな天生牙を持って、殺生丸の後を追っかけて行く。
  ン~~~何べん見ても信じられねえな。
あんな気難しい奴を良くお守りしてるぜ、あの嬢ちゃん。
  それに、あの琥珀とか言う退治屋の少年も、殺生丸に付いて行くみてえだし、妙に人望が有るんだな。
チョッピリ、見直したぜ、殺生丸。以前のお前からは、想像もせんかったわい。

 
「おう、刀々斎。」

 
  いつもの生意気な物言いで、犬夜叉が、声を掛けてきた。少しは回復したらしいな。

 
「殺生丸は、どうなる・・・? 武器を無くして・・・」

 
  フン、一丁前に兄貴の心配をしてやがる。まあ、こいつが、技を譲ってくれと頼んだ訳じゃねえが、多少、気が咎めてるのかも知れんな。

 
「兄貴の心配より、おめーは早いとこ新しい鉄砕牙を使いこなしな。」

 
「冥道から出られたのだって、自分ひとりの力じゃねえって判ってんだろ?」

 
「ああ・・・」

 
  流石に、さっきの今じゃ、いつものクソ生意気な態度が抜け落ちてるな。
まあ、それは、置いといて、差し当たっての問題は、殺生丸の方だ。
あと一歩で、あいつは、親父殿の形見じゃなく、自分自身の武器を手に入れる処まで来てる。
儂も、こうしちゃおれんな。
朴仙翁の処へ行って鞘の材料にする為の枝を強請(ねだ)りに行くか。
朴仙翁は、あれで、結構、殺生丸を可愛がってるから『否』とは云わんだろうさ。
酒盛りついでに、犬兄弟の近況を話してやれば、噂好きの、あの爺さんの事だ。
  きっと喜ぶだろうぜ。
冥加も捜して一緒に連れて行ってやるとすっか。
置いてくと五月蝿いからな。
 
 
  殺生丸が、犬夜叉に、自分の育てた技、冥道残月破を譲ってから何日、経過しただろう。
容易ならざる気配を、刀々斎は、感じ取った。
ピリピリするような、異様なまでに大気が活性化した状態。
  これは、恐らく、殺生丸の新しい武器が出現する前触れ。
こりゃ、いかん、グズグズしちゃおれん。

 
「急げっ! 猛々! 殺生丸の新しい剣が、いよいよ現れるぞっ!」

 
  取るものも取り合えず、現場へ急行してみれば、案の定、奴は、戦闘の真っ最中だった。
フ~~ン、犬夜叉も、かごめも居るな。それに法師や七宝、退治屋の珊瑚ってえ娘っ子も。
阿吽に乗ったりんに邪見、琥珀と、みんな雁首そっくり揃えてやがる。
状況から判断して、兄弟揃って仲良く共同戦線を張ってたって処か。
まあ、通常なら、あの殺生丸の事だ。絶対に犬夜叉達と力を合わせて戦うなんて事は、まず、せんだろうが。
それ程、尋常ならざる相手と戦っているって訳か。
ああ、現れはじめてるな。この光、闇を切り裂く雷光のような輝き。
もうすぐだ。もうちっとで、お前は、自分の刀を手にするだろう。
バチバチと雷のように放電する音と閃光の中に、朧気に輪郭が見え始めている。

 
(さあ、見せてみろ、殺生丸! お前の刀を!)

 
(誰の借り物でもない、お前の中から出てきた、お前の為の、お前だけの刀を!)

 
  殺生丸が、こちらに目を遣る。
どうやら、気付いたみてえだな。
お前の新しい刀の存在に。
それに、失くした筈の左腕が再生してるって事も。
稲妻のような光の中に浮かび上がった、その刀は、刀身にも柄にも、ビッシリと雷紋が刻まれている。
一見、天生牙に良く似た細身の大刀。
だが、その刀“爆砕牙”こそ、天生牙の対極に位置する究極の“破壊”の刀。
その破壊力は鉄砕牙でさえ爆砕牙に遠く及ばない。
一度、振るえば、千の妖怪を薙ぎ倒し破壊し尽す。
神の怒りにも等しい力を有する刀。空恐ろしい程の破壊力を秘めている。
だからこそ、以前の冷酷無慈悲なお前には、決して持たせられなかった。
と言うよりも、出現しなかった。
この爆砕牙と天生牙、共に慈悲の心なき者には、決して所有する事が許されん。
お前は、天生牙を正しく使いこなす事により、大悲(だいひ)の心を示した。
更に、犬夜叉に、自分が育てた冥道残月破を譲る事によって、親父殿や半妖の弟に対する長年の確執、様々な執着を捨てた。
そうする事によって、遂に、お前は、爆砕牙の正当な所有者としての資格を得た。
今のお前を見たら、きっと、冥土の親父殿は、草葉の蔭で喜んでくれてるだろうて。
大将はな、殺生丸、お前に、誰よりも期待してたんだぜ。
親である自分さえも叶わない不世出の才能を秘めてるってな。
正直、儂は、それを聞いても半信半疑だったけどよ。
ま~た、大将のいつもの親馬鹿だと思ってさ。
だってよ、いくら、才覚が有ったって、“冷酷無慈悲”の代名詞みてえなお前がだぜ、慈悲の心の証明である天生牙を使いこなすなんてよ。
思ってもみんかったわい。
況してや、人の仔を助けるなんて。
儂じゃなくたって、誰も想像せんかっただろうさ。
  だが、親父殿の目に、狂いは無かったな。
単なる親馬鹿じゃなかったんだ。
お前は、その全てを、見事にやってのけた。
わざわざ、朴仙翁に頼み込んで、枝を譲ってもらって来た甲斐が有ったぜ。
  その刀、爆砕牙には、この儂が、直々に鞘を作ってやろう。
今迄のお前の並々ならぬ努力に対しての褒美としてな。
それにしても、殺生丸、お前は、本当に執念深い奴だぜ。
西国を出奔して、二百年もの間、大将の形見の鉄砕牙を捜し回り、遂に、見つけ出しちまった。
それで、見つけ出したは良いが、鉄砕牙を自分の物にするどころか、見下してた半妖の弟、犬夜叉に、左腕を斬り落とされちまったんだもんな。
踏んだり蹴ったりとは、正に、この事だよな。
それでも、頑固なお前は、諦めようとはしなかった。
再三再四に渡り、鉄砕牙を奪おうとして、あの手、この手で、仕掛けてきたっけ。
イヤハヤ、呆れた執念だったぜ。
ようやっと、お前が、鉄砕牙を諦めたのは、風の傷を、まともに喰らった時だったよな。
あの時、初めて、天生牙が、自分の意思で、結界を張り、風の傷から、お前を守ったんだっけ。
刀の所有者として認めたんだ。
でなきゃ、お前が、如何に大妖怪であろうと、命は無かった筈だぜ。
その後、何が有ったかは、知らん。
だが、決定的な敗北を喫した後、お前の中の何かが、変わった。
次に逢った時、お前は、小さな人間の娘っこを、りんを連れていた。
あん時は、本当にぶったまげたぜ。
半妖の弟、犬夜叉も、随分と、儂を驚かせてくれるが、お前に比べりゃ、どって事ないぜ。
全く、意表を衝くとは、お前の事だ。
筋金入りの人間嫌いと謳われたお前が、人間を連れてたんだもんな。
それも、ちっこい雛みてえな嬢ちゃんを。
お天道様が、西から昇ったと云われても信じちまいそうだった。
そんくらい衝撃的だったわい。
多分、あの、人間の嬢ちゃんが、お前を変えたんだろうな。
そして、今日、とうとう、長年の望み通り、遂に、親父殿を超えちまった。
本当に、大した奴だぜ。
怖ろしく強情で、トコトン妥協を嫌い、我が道を行く。
犬の大将は、そんなお前の性格を知り抜いてたんだろうな。
だからこそ、こんなに厳しい試練の道を、お前に用意したんだ。
鍛えに鍛え抜かなければ、名刀が生まれないように、殺生丸、お前も、鍛え抜かれる必要が有った。
“爆砕牙”と“天生牙”と云う相反する希代の名刀の所有者として。
  今のお前には、最強の大妖怪と呼ぶに相応しい力量と度量が、備わっている。
儂は、しがない刀鍛冶じゃが、これまでの経緯(いきさつ)の全てを知る者として、爆砕牙の出現を、心の底から言祝(ことほ)ごう。

「見事だ、殺生丸。」 
                   
           了    

 大悲(だいひ)=【仏】衆生を苦しみから救う仏の大きな慈悲。

 2007.12/8(土)◆◆猫目石 
 
 
《小説第四十二作目『爆砕牙』についてのコメント》
  当初は、別の題で書き出しましたが、微妙に内容とのズレを感じて、今の題に変更しました。
  滅多に題を変えない私としては珍しい例です。最近、オリジナル作品ばかり書いていたので、原作に沿った作品は久し振りです。
ジックリと原作を読み込みながら書き進めました。そのおかげで、今迄、気付かなかった二・三の事実にも気付かされました。
初めて小説を書き始めたのが『闘鬼神、再び』でした。
その後も、『闘鬼神誕生』『天生牙』『闘鬼神再生(裏話)』『天剣』と、刀剣に纏わる話を随分、書いてきました。
どうも、管理人は、細身の美しい剣に、特に心惹かれる傾向が、有るようです。 
                
2007.12/9(日)★★猫目石
 

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