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第弐作目◆『闘鬼神誕生』

人間の小娘を拾った。
・・・いや、娘と言うのもおこがましいか?
何しろ・・・・・・・年端もいかぬ童女だ。 
本来ならば、母親に、まだ世話されている筈だ。
年の頃は、精々、五つか六つであろう。 
妖狼どもに噛み殺され息絶えた命を冥府から天生牙で呼び戻した。
己が初めて自分の意思で天生牙を振るった命だ。 
拾い上げた以上、捨てる訳にもいかぬ。
だが、人間の子供の事など何も知らぬ。 
面倒なので下僕の邪見に世話を任せた。
あ奴は、不平不満を垂れ流しながら子供の世話を始めた。
・・・それにしても騒々しい。 
・・・・何事だ!?!
幼子と下僕とが、先を争って私に向かって駆けてくる。 
口々に喚き立てながら。

「殺生丸さまっ! 殺生丸さまっ!」
  
「殺生丸様~~~~~っ!」

幼子は雛特有の高い、だが愛らしい声で。 
下僕は耳障りな聞き苦しい声で。
互いが必死に何事か私に訴えてくる。 
・・・一体、何だというのだ。

「殺生丸様っ! りんの奴に言い聞かせてやって下さいませ!」

「今日は、灰刃坊の許に打ち上がった刀を取りに行く故、一緒には連れて行けぬ、と!」

邪見めが口というか嘴か? 
唾を飛ばさんばかりに捲くし立ておる。
只でさえ悪い顔色が赤くなって、どうにもこうにも表現し難い顔色になっている。 
・・・見苦しい。
りんは、と言えば・・・こちらは血色のよい薄紅色の頬を思いっきり膨らませている。
どうやら、一緒に行きたいと駄々をこねているらしい。

「・・・・・・りん、大人しく待っていろ」
 
拾い上げた時から、りんは、己の意思に逆らった事はない。

「・・・・・・はい」
 
少し、しょんぼりしつつ素直に頷いた。

今から赴く先は火山地帯で溶岩が絶えず流出している。
有毒な気体をか弱い人の仔が吸えば即座に命を落としかねない危険な場所なのだ。 
そんな所に、りんを連れて行く訳にはいかない。
刀々斎の弟子とはいえ、余りにも邪悪な剣を打つが故に破門された程の曰くつきの刀鍛冶だ。
何が起きるやも知れぬ。 安全な場所で待たせる方が良かろう。
近くに林のある野原に、りんを置いていった。 
花でも摘んで遊んでいろ。
邪見を供に阿吽に乗って空を往く。 
目的地は鼻をつく臭いで満ちた悪しき場所だ。
先触れに行かせた邪見が戻って来ない。
殺生丸は灰刃坊の住処に脚を向けた。
誤って迷い込んだ獣達が有毒な気体を吸い込み、無残にも骨だけの骸を晒している。
不気味な場所に相応しく荒れ果てた灰刃坊の工房兼住まい。
一歩、脚を踏み入れてみれば、己の下僕が見事に真っ二つに両断されている。

「・・・灰刃坊の仕業か」

天生牙を鞘から抜き放ち、死体に纏わり付く、あの世からの使いどもを斬って捨てる。
邪見が息を吹き返した。 
尤も、まだ体は両断されたままだが。

「あれ・・・・・・・?」
 
「儂は確か灰刃坊に斬られて・・・・・・」
 
「って、やっぱし・・・・・」

「行くぞ、邪見」
 
「サッサと体をくっつけろ」
 
いつもの無表情な殺生丸の言葉。

「・・・・・・・殺生丸様・・・・・・?」
 
「あの~~もしや・・・・・・天生牙で儂の命を救って救ってくださったので?」

「私の他に、こんな事の出来る者がいるか。」
 
ジ~~~ン!
儂、感動・・・・・・殺生丸様!!

「灰刃坊は刀を仕上げたのか?」
 
「そ、そうでした。 灰刃坊は鬼の牙から剣を打ち起こしたと・・・・・」

「それが、あ奴、何やら目つきが、おかしくて・・・・・・」

「まるで・・・・・まるで剣に操られているような・・・・・・」

成る程・・・灰刃坊の奴、どうやら自らが打ち起こした刀に取り憑かれたようだな。

あの牙は犬夜叉に倒された鬼の物。
という事は復讐の為に灰刃坊に取り憑きあの半妖の許へ向かったという訳か。
・・・丁度良い、あ奴に確かめたい事もある。

「邪見、阿吽を連れて来い。 灰刃坊を追うぞ」

そうと判れば、もう、このような場所に用はない。 
殺生丸は踵を返し工房を後にした。
あれほどの邪気を撒き散らす刀と刀鍛冶の匂いを辿るのは容易き事。
阿吽を駆りつつ目的の場所へと急ぐ。 
次第に邪気が強くなってきた。
見えた! 
阿吽を急降下させつつ雷撃を見舞う。 
ドオォォン!!!
殺生丸は音も無く静かに地に降り立った。 
雷撃の直撃を受けながら鬼の刀は、刃こぼれ一つ無く地面に突き刺さっている。 
これならば鉄砕牙にも引けを取るまい。

「な・・・」
 
「殺生丸!」
 
「何で、てめえが、此処に・・・」
 
半妖が喚き散らす。

「それは、こちらの台詞だ」
 
「私は、この剣を追ってきただけだ」

「どうやら、貴様に殺された鬼は・・・剣になっても、尚、貴様に復讐したかったようだな」

「なっ・・・」
 
殺生丸、こいつ・・・そんな事を何で知ってる・・・?
闘鬼神が悟心鬼の牙で出来ている事を知っている、という事は・・・・。

「灰刃坊に剣を打たせたのは私だ・・・・・」
 
平然と殺生丸は事実を告げた。

「殺生丸っ!闘鬼神に触れてはいかん!!」
 
刀々斎が犬夜叉の後ろに隠れて喚く。

「いくら貴様でも、闘鬼神の邪気にあてられたら、灰刃坊同様、取り憑かれて・・・・・・」

刀々斎の必死の説得を、片腹痛いとばかりに無視して、殺生丸が闘鬼神を手に取る。

「貴様、私を誰だと思っている」
 
何と!見る間に、あれ程の禍々しい邪気が収束していく。
殺生丸の妖気が闘鬼神の邪気を抑え込んだのだ。 
桁外れの妖力と言って良いだろう。
呆れて物も言えない刀々斎であった。
   
(もぉ~~~~やだ!!・・・こいつ)

「ふっ・・・剣も使い手を選ぶという事だ」
 
「抜け、犬夜叉」

「貴様に確かめたい事がある」

俺に・・・確かめたい事だと!? 
・・・こいつは何を言っているんだ。

「やめて! 犬夜叉」
 
かごめが必死に止めようとする。
 
「下がってろ、かごめ」

「おめえ、勝てると思ってんのか?」
 
刀々斎も心配そうに俺を窺がう。

「けっ、待ってくれと言っても、聞く相手じゃねえだろ」
 
・・・やるしかねえな。

「そういう事だ」
 
「かかってこい、犬夜叉」
 
「来ないなら、此方から行くぞ」

疾風の如く襲い掛かる殺生丸の斬撃。 
迎え撃つ犬夜叉の鉄砕牙。
だが、打ち直した鉄砕牙の重さは半端じゃない! 
持ち上げるのが、やっとだ!
風切り音が宙を裂く。 
ゴオォッ!! 
熾烈な打ち込みを鉄砕牙で必死に受け止める。
だが、闘鬼神の剣圧は凄まじく・・・ビシビシと容赦無く犬夜叉にかすり傷を負わせる。

「やっぱり!受けるのがやっとだわ!」
 
かごめが叫ぶ。

「しかも剣圧に負けとる」
 
七宝も、かごめの肩に乗りつつ犬夜叉の身を案じる。

「マズイな、もぉ~~~~」

刀々斎は、圧倒的に犬夜叉に不利な状況を見て取った。

「今の犬夜叉では勝ち目は無いと!?」
 
弥勒も戦況を量りながら刀々斎に尋ねる。

「だ~~~~って、あいつ、鉄砕牙、振れねえじゃん」
 
・・・それにしても、まいったな。

只でさえ物騒な剣・・・闘鬼神。 
よりにもよって殺生丸の手に渡っちまうとは・・・。
それぞれの思惑が交錯する中、殺生丸も符に落ちぬ物を感じていた。
やはり・・・只の半妖の血の匂いしかしない・・・
だが、あの時、悟心鬼と闘いながら、犬夜叉の血の匂いは、確かに変わった。
それが、どういう事なのか・・・。 
この目で、しかと、見極めてくれるわ。

(一振りで決めねえと・・・・・・やられる!)
 
重すぎる鉄砕牙を持て余し、持ち上げる事すら、やっとの今の状況では、犬夜叉が、そう判断するのも無理はなかった。
だが、殺生丸は、恐ろしく強い。 
果たして・・・それが通用するか、どうか?

「闘い方を変えたのか? 犬夜叉」 

「いつもは、やたら振り回してくるお前が・・・」

「くっ・・・」
 
もう、何か勘付いてやがる。 
・・・・殺生丸の奴。
迷ってる暇はねえっ!
やらなきゃやられる!!

「やかましいっ!」
 
渾身の力を込めて重い鉄砕牙を振り下ろす犬夜叉。
鉄砕牙と闘鬼神、互いの剣圧が、ぶつかり合う! 
衝撃波が宙空に走る!!
だが、重い鉄砕牙を扱いかねている犬夜叉は、充分に剣の威力を引き出す事が出来ずにいる。
当然、防御力の結界も弱まる。 
その分、闘鬼神の剣圧のあおりを受けて、確実に、かすり傷が増えていく。
それに引き換え、殺生丸の方は傷ひとつ無い。 
完璧に闘鬼神を使いこなしている証拠だ。
・・・ギリギリと剣の押し合いが続く。

「ほお・・・鉄砕牙が少し重くなったのか」
 
「す・・・少しじゃねえ、馬鹿野郎!!」

「ふん! 手に余る刀など・・・」
 
「持たぬ方がマシだ!」

殺生丸が闘鬼神で鉄砕牙を弾き飛ばした! 
ガシーンッ! 
ギュワン!

「鉄砕牙が弾き飛ばされた」
 
何という馬鹿力だ・・・流石は犬夜叉の兄。
弥勒は舌を巻く思いだった。 
この兄弟の喧嘩はスケールが違いすぎる。

「犬夜叉!」
 
「いかん、まるで大人と子供じゃ」
 
見ているかごめと七宝も気が気ではない。
鉄砕牙もろ共、投げ飛ばされた犬夜叉は、何とか体勢を立て直したものの、鉄砕牙を手に取ろうとはしない。 変化を解かれた鉄砕牙は、元のボロ刀に戻っている。

「犬夜叉さまっ、は、早く、鉄砕牙を拾いなされ」
 
ノミ妖怪の冥加が必死に叫ぶ。

「冥加じじい・・・・・・」
 
駄目だ! 
今の遣り合いで充分過ぎるほど判った。
とてもじゃないが、あんな重い鉄砕牙を振るう事はできねえっ!
・・・ならばっ!!

「いらねえ!」
 
犬夜叉が丸腰で殺生丸に向かって行った。

「だめよ、犬夜叉!」
 
「丸腰で殺生丸とやりあう気か!?」
 
かごめと七宝が止めようとするが言う事を素直に聞くはずも無い。 
冥加も必死に諌めるが効果は無い。

「犬夜叉さま、ヤケになってはいかん」

「あんな重い刀じゃ、勝てる喧嘩も勝てねえ!」

犬夜叉め、無謀にも刀も持たずに己に向かって来るとは・・・。

「身の程知らずが。」

闘鬼神をピタリと半妖に向け、闘気を高め、剣圧として放った。
衝撃で吹き飛ばされる犬夜叉。 
更に血が、あちこちから噴き出す。

叢に蹲る犬夜叉。

「この野郎・・・」
 
このままじゃ・・・やtられる!!
何かが・・・体の中から・・・噴き出してくる。 
死んで堪るもんか・・・・まだ・・・
意識が薄れていく・・・ドクン・・・ドクン・・・ザワザワと血が騒ぎ出す。

「半妖は、所詮、半妖か・・・・・・・」
 
「もういい、死ね!犬夜叉」

闘鬼神を今にも振りかざそうとした、その刹那、犬夜叉の血の匂いが変わった。
妖気が・・・変わった。 
・・・いつもの半妖の血の匂いではない!?!
殺生丸が一瞬、ためらった隙を突いて炎が周囲に燃え広がる。 
ゴオオッ~~ゴオッ~~
刀々斎が火吹きの術を使ったのだ。 
辺りの草は、晴天続きのせいもあり劫火に変わる。
バチバチと炎が燃え爆ぜる音。 
気が付いてみれば、もう、犬夜叉達は居なかった。
残り火がチロチロと消えそうに残る焼け跡で、殺生丸は、先程の事を思い返していた。

「いや、流石は殺生丸様、お強いっ」
 
いつもの邪見のお追従を上の空で聞き流す殺生丸。

「しかし、あそこまで追い詰めておきながら、何で追いかけなかったので?」

「・・・・・・・・・・」
 
「殺生丸様?」
 
無言の主に不思議そうに尋ねてみるが、応えは無い。
この殺生丸に・・・一瞬でも恐れを感じさせるとは・・・。 
あの時の犬夜叉は・・・。

「・・・戻るぞ! 邪見。」 

「ははっ! 阿吽を連れてまいりまするっ」

りんが待ちくたびれているだろう。 
あの辺りに危険な様子は無かったが。
童女は、幼さ故に、好奇心が強く・・・下僕が肝を冷やすような事をチョクチョク仕出かす。
ひとまず、用事は片付いた。 
・・・犬夜叉の変化については、又の機会に探るとしよう。
りんは、いつも通りに花を摘みながら己を待っていた。 
己の姿を見た途端に名前を呼び駆け寄ってこようとした。
 
「りん、動くな」
 
・・・ピタリと静止する幼子。
フワリと瞬時に十間(一間=1.82m)ほどの距離を跳び、樹木に身を隠した怪しい影を切る。
闘鬼神の斬撃をかわしたのは見た事も無い女。 
・・・だが・・・この臭い。

「覚えのある臭いだ。・・・・・・以前、私を陥れようとした奈落とかいう喰わせ者と同じ・・・・・・」

女は怖れる様子もなく私に話しかけてきた。 
婀娜っぽい遊び女のような姿をしている。

「ふうん、あんたが犬夜叉の兄貴の殺生丸かい。」
 
「やさ男だねえ。」

「あたしは風使いの神楽。」 

「奈落の分身みたいなもんさ」

「分身だと?」
 
・・・道理で、あの喰わせ者と同じ臭いがする訳だ。

「そう・・・・・・・そして・・・・・・・・あんたが持ってる剣に使った悟心鬼って奴も・・・・・・」

「あたしと同じ奈落の分身さ」
 
事も無げにサラリと事実を口にする女。

「だから、どうした」
 
「刀を返せとでも云いにきたのか」

何を探りに来た? 
それに不快な・・・この臭い。

「ふん、奈落の野郎は、殺された鬼になんか未練はねえさ。」

「あたしは勝手に悟心鬼の末路を見届けに来ただけ・・・」

「ねえ・・・あんた、強いんだろ?」 

何が言いたいのだ・・・この女は?

「あんたなら、もしかすると・・・奈落を殺せるかもしれないね。」

「・・・・・・」
 
どうやら・・・この女は分身ではあるが奈落を殺したいらしい。
ゴオォッ! 
風を巻き起こし大きな羽根に乗り、女は去って行った。

「胡散臭い女でございますなあ。」
 
邪見が女の去って行った方を身ながら呟く。

「・・・・・・・・・・」

奈落の事といい、覚えておく必要があるかも知れん。
りんは、私の言いつけのままに、身じろぎ一つせず、ジッとしている。

「りん」
 
「もう、動いていい」
 
己の言葉を聞き、りんが、やっと片足立ちの体勢を解いた。

「あっ、はいっ」
 
邪見などより、りんの方が、余程、聞き分けが良い。
それにしても・・・あんな女に言われなくとも、奈落如き、今度、私の周りをうろついたら斬って捨ててくれるわ。 先程の神楽との遣り取りを思い返しながら殺生丸は、闘鬼神の柄を握り締めた。
・・・・闘鬼神には鞘が無い。 
灰刃坊は、勿論、当初は鞘を付けるつもりであっただろう。
しかし、刀を打ち起こした、その時点で、もう、悟心鬼の怨念に取り憑かれていたのだろう。
剥(む)き出しの刀身、考えようでは、それも、この刀に相応しいか。
鬼神の如く闘う、この剣に冠された名のままに。 
鞘など必要ないという事かも知れぬ。
殺生丸は知らない。 
今後、自らが、奈落や犬夜叉達と深く拘わりあうようになる事を。
闘鬼神と共に数々の死闘を潜り抜ける事になる未来を。
これ以後、常に、殺生丸の腰には二振りの刀が佩(は)かれる事になった。
一振りは癒しの刀、天生牙。 もう一振りは闘いの刀、闘鬼神、鬼の剣である。                了

                                     2006.5/15(月) 作成◆◆

《第弐作目「闘鬼神誕生」についてのコメント》

この第二作目は、全然、思い通りにならなくて。
本当は、りんちゃんと邪見とのホノボノ話でも書こうと目論んでたんです。 
それなのに、イザ書き出してみると、チッとも思う方に話が進んでいかない。
遂に諦めて小説の神様?の言う通りに原作を引っ張り出してきて書き上げた物です。
尚、三作目は上手く書けなくて放置中です。・・・・・このままズ~~~ットそうだったりして。

2006.8/9(水)★★★猫目石

 

 

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