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第十五作目(「天下覇道の剣」りん救出バージョン) 『呼応』

「助けて~~~~っ、殺生丸さま~~~~っ!」

亡者どもとの戦場と化した場所に響き渡ったりんの声。 
あれが、りんが、私を呼ぶ。 
その叫びを聞いた瞬間から、私の脳裏には亡者どもの事など消え失せた。 
一刻も早く、あれの許へ、りんの許へ、それだけが意識に。
叢雲牙が根城にした山城。 
邪気が周囲を取り巻いている。 
つまり、辺り一帯が叢雲牙の結界。
己の飛行速度では遅すぎる!
走る! 跳ぶ! 我、疾風の如く駆け抜けん! 
その姿は、宛(さなが)ら白銀の閃光のようにさえ見えた。
山の頂上にある城まで百数十mもの距離を、僅か二度ほどの跳躍で達する。 
正しく神速、電光石火の早業(はやわざ)。
前に立ち塞がる亡者どもを 殺生丸は斬って、斬って、斬り捨てる。 
ズバッ! ズバッ! ザンッ!
石段の下に半妖の異母弟の姿が! 
犬夜叉・・・・・やはり、奴も来ていたか。
 
「殺生丸!」 

「死に損ないめ・・・そんな所で何をしている?」 

「やかましい!」
 
一気に石段を駆け上り、己の背後に回り込んできた犬夜叉と、背中合わせに闘う位置を取る。
この際、背に腹は変えられぬ。
“りんを救出する”為には、仲の悪い異母弟とも共闘体勢を取らねば。
 
「殺生丸! これが終わったら、さっきの決着を付けてやるからな!」

・・・煩い奴だ。
 
「フン・・・それまで貴様は生き残っていられるのか!」

・・・相変わらず向こうっ気ばかり強い。
 
「てめえこそ、俺以外の奴にやられんじゃねえぞ!」

・・・貴様と一緒にするな。

ブン! ドオン!! ゴオォッ・・・ 
閃光が走る!!
 
犬夜叉が鉄砕牙を振るって風の傷を、お見舞いする。
立ち所に薙ぎ倒される亡者の兵ども。
 
「どうでいっ!」 

血路が開いた。 
即、走り出し、先を急ぐ殺生丸。
 
「あっ!待ちやがれっ!」

・・・・・誰が待つか! 馬鹿者!
 
「汚ねえぞ!」

「殺生丸!」

・・・・出遅れる貴様が悪い。 
一刻を争うのだ!
 
今、この瞬間にも、りんが、危ない目に逢っているかも知れないのだ。
殺生丸が一刻を争って駆け付けた城の奥座敷。
嘗ては城の心臓部として華麗な様相を誇ったであろう場所。
だが、今や、そうした面影は殆ど残ってない。
不気味な亡者どもの血の妄執に覆い尽くされている。
そうした場所に相応しく、叢雲牙に取り憑かれた亡者、刹那猛丸(せつなのたけまる)も異様な風体(ふうてい)をしていた。 
右の額から突き出た鬼の角。
鬼の角の下、右顔面に浮き出た青い斑点。
鋭い棘だらけの装甲。
殺生丸の左腕を装着しているせいだろう。
白を基調にした戦装束(いくさしょうぞく)。
同じ白い指貫袴(さしぬきばかま)。
 
「死ね!」
 
刹那猛丸(せつなのたけまる)が叢雲牙を、りんに、振り下ろさんとした、正にその時、間一髪、殺生丸が、闘鬼神で止めに入った。 
ギンッ! ギシ! ギシ・・・
 
「!!」

「殺生丸さまっ」 

ブンッ! 猛丸(たけまる)をりん達から遠ざける殺生丸。
 
「行け・・・貴様らが居ると闘いの邪魔だ・・・」

早く、この場を立ち去れ!
 
「行きましょ、りんちゃん・・・」

「殺生丸さま・・・これ・・・」
 
りんが差し出したのは、天生牙。 
何故・・お前が・・・成る程、だから・・・捕まったのか。
 
「・・・・早く行け・・・」

・・・安全な場所へ・・・りん・・・お前が怪我などせぬ所へ。
 
「はい・・・」 

大事そうに天生牙を下に置き、闘いの場より去って行くりん達。
 
「遅かったな!」

襲い掛かってくる刹那猛丸(せつなのたけまる)。 
ギンッ!
刃と刃がぶつかり合う! 火花が飛び散る!
激しい鍔迫り合い(つばぜりあい)。
そんな中、殺生丸は、気付いた。 
猛丸が叢雲牙を振るっている左腕は己の物である事に。
曾て、犬夜叉に斬り落とされた己が左腕。 
あの世の境、父上の墓に置き去りにした・・・
 
「その左腕・・・」

「そうさ、おまえの腕だ・・・」

「返してほしいか?」
 
「要らぬ!」

・・・・・・薄汚い亡者の貴様に従った腕など、誰が!
 ガシーン! 闘鬼神が弾き飛ばされた! 
チャッ! 得意そうに叢雲牙を突き付けてくる猛丸。
 
「ふふふ・・・どんな気分だ?」

「自分の腕に殺されるというのは・・・」
 
「・・・所詮、貴様は、その程度か・・・」

「・・・なに?」
 
「叢雲牙に操られているのにも気付かず、それを自分の力だと思い込んでいる哀れな亡霊だ・・」
 
「黙れ!」

「貴様の父親から受けた屈辱を返してやる!」

激昂した猛丸が刃を振りかざす。
その僅かな隙を突いて、闘鬼神を取りに行くと見せかけ、反対方向に跳び、天生牙を手中に。
りんが置いていった天生牙だ。 
シュッ! 素早く帯に挟み込み、鍔打ちを。 
シュバッ!
 
「光栄に思え・・・」

「貴様は父上の牙で倒してやる・・・」

・・・後悔させてくれる。
 
ギンッ!

「そんな人も斬れぬ刀に何が出来る!?」

「人は斬れぬが屍は斬れる!」
 
ズバッ! 言葉通りに猛丸を両断する殺生丸。

「ぐおっ!」
 
ドッ! 倒れ付す猛丸。
だが・・・何と! 両断された身体が元に戻っていくではないか!
 
「くくく・・・」

「どうした? 屍すら斬れぬか!」

薄笑いを浮かべつつ嘲る亡者の笑み。
 
「どうした、殺生丸!」

「親父の牙が泣いてるぞ!」

「!!」
 
・・・・・貴様などに偉大な父上を愚弄されて溜まるか!
 
(お前に守るものはあるか・・・)
 
脳裏に甦る父上の姿。
どれほど貴方に憧れ、何時の日にか、倒したいと願った事か。
父上・・・・回想に耽(ふけ)る己を瞬時に現実に引き戻す斬撃。 
今は闘いの時、気を抜いてはならぬ。
 ・・・・この臭い! 来る! 風の傷!
即座にその場を離れ、難を逃れる殺生丸。
ゴオォッ! カアッ! ゴオオォォ・・・・ 
シュゥ・・・・凄まじい破壊力
 
「ハァハァ・・・・」

「相変わらず鼻だけは良いみてえだな・・・」

ちっ・・・殺生丸め、勘の良いこった。
 
「風の傷の臭いを嗅ぎ取りやがったか・・・」

「貴様の風など、そよ風ほどにも感じぬ・・・」
 
「折角、てめえごと、ぶった斬ってやろうと思ったのによ・・・」

まあ、多分、無理だろうけどよ。
 
「兄弟仲良く父親の仇討ちか・・・物の怪にも人並みの情があるとはな・・・」
 
「そう言うてめえは化け物じゃねえか!」

刹那猛丸(せつなのたけまる)に突っ込んでいく犬夜叉。 ギンッ!
 
「ふふふ・・・お前を見てると十六夜を思い出す・・・」

「・・・・・!?」
 
「私を捨てた揚げ句、貴様のような半妖を生んだ愚かな女・・・・」

「てめえ!」
 
「よく聞け、犬夜叉・・・私は貴様の母親を黄泉の国へ送り出した男だ・・・・」
 
その時、殺生丸が動いた! 
天生牙を口に咥え、床に突き刺さっていた闘鬼神を投げつけたのだ。
猛丸と犬夜叉の間に飛び込んできた闘鬼神!

「!!」

その間隙を利用し殺生丸が猛丸と犬夜叉との間に割って入る。 
ギン! 今度は、犬夜叉が、すかさず割り込んでくる。

「どけっ!」 

グイッ!
 
「下がっていろ!」

「るせえっ!! 今度は抜け駆けさせねーぞ!」 

まるで兄弟喧嘩だ。
どこまでも張り合う、譲り合うという事を知らない兄弟。 
似たもの同士か・・・・。
 
「お前達兄弟を同時に葬る又とない機会・・・・」

猛丸が叢雲牙を上段に構える。
 
(猛丸よ、獄龍破だ・・・鉄砕牙と天生牙を滅せよ!)

「言われずとも判っている・・・」
 
叢雲牙の刀身から黒い龍の形の妖気がとぐろを捲き始める。 
ズ、ズ、ズ、ズ・・・・
 
「させるかっ!」

犬夜叉が吠える! 

「往生際の悪い奴だ!」

猛丸も叫びかえす!
 
「うおおおーっ!」

吠える犬夜叉。 
渾身の気合を込めて鉄砕牙を振り下ろす。
ギンッ! バリバリ! バリバリ! 
火花が飛び散る! 激しい打ち合い!
 
「諦めが悪いんだよ! 俺は!!」
 
犬夜叉に押される刹那猛丸。 ズッ・・ズ・・・
 
「なっ・・・馬鹿な!」

(貴様、まだ、こんな力が・・・・)
 
「この程度で驚いてんじゃねえぞ!!」

犬夜叉が吠える。 ゴ・・ゴ・・ゴ・・・
 
(妖怪では、有り得ん事だ!)

「当たり前だ!」

「俺は半妖だぜ!」
 
「どんな生き物よりも自我が強く欲望が果てしない・・・・それが人間なんだろ!?」
 
「その血が流れている俺だから諦めが悪いんだよ!」

ゴ・・ゴ・・ゴ・・・・
 
「それにな、人間って奴は、守るべき者があると・・・その力は何倍にもなるんだよ!」
 
「!?」

・・・・・・殺生丸の脳裏に甦る父の姿、父の言葉。
 
「おかげで、お前を倒せる! お袋には、感謝してるぜ!」

犬夜叉の心からの叫び。
 
(猛丸・・・)

こんな時に、何故、十六夜の姿が、声が、思い返されるのだ・・・・ 
                 
「ぬうう・・・」

「うおおぉ・・・」

裂帛の気合いと共に遂に均衡が破れた!
 
「おおおっ!」

ボコッ 壁をぶち抜く程の力に押され倒れる猛丸の心に甦る十六夜の言葉。
・・・・・・過ぎ去りし運命の、あの日に、かの女(ひと)に掛けられた言葉。
 
(一刻も早く立ち去りなさい・・・) 

ドカッ!

「ぐおっ!」 

壁に叩き付けられる猛丸。
 
(一刻も早く表の兵達と共に・・・立ち去りなさい)

「十六夜様・・・あなたは・・・」
 
(あなた達を死なせたくはないのです・・・)

「私を守ろうとしていた・・・」
 
(猛丸・・・?)

(どうした、猛丸・・・!?)

最早、叢雲牙の言葉も猛丸の心には届かない。
 
「思い出した・・・」

「私は、十六夜様を憎んでなどいなかったのだ・・・」
 
「ずっと十六夜様を・・・十六夜様の事を・・・・」

そう・・・・想い続けていたのだ・・・・
叢雲牙の呪縛から開放された猛丸の額から鬼の角が落ちた。 
ポロッ・・・・
それと同時に、仮初(かりそ)めの肉体が砂と化して零れ落ちていく。
ズ・・・ズ・・・ズ・・・残ったのは骨の骸。
 
「終わった・・・」

犬夜叉が呟いた。

「!?」
 
何だ? この振動は! ブウン・・・
天生牙が発動した。 
亡者の骸に纏わりつく餓鬼どもを一閃して斬る! ブンッ!
哀れな亡者の魂が・・・・もう迷わず成仏できるように・・・・・。
 
「けっ!」

「何の積りだか知らねぇが、こいつを倒したのは俺だからな!」
 
「まだ、終わってはおらぬ・・・」

・・・・・・判らんのか、犬夜叉。
 ポウ・・・叢雲牙を掴んだ殺生丸の左腕が亡者から離れた。
スウ・・・ズ・・・ズ・・・ズ・・・バキッ・・・・ゴ・・・・・ゴ・・・・・ゴ・・・・・
城が・・・・崩れ落ちていく。 
ゴ・・・・ゴ・・・・ゴ・・・・・・ゴオッ・・・・バキッバキバキッ・・・

「我、ここに冥界への道を開かん!」
 
叢雲牙が人型を取った。
大地が割れる! 冥界への道が開かれ始めた!
ズウウ・・・ウ・・・ン・・・・ゴ・・・ゴ・・・ゴ・・・
慌てて城から非難するりんとかごめ、犬夜叉の仲間達。
刀々斎に冥加、鞘の精も一緒だ。
巨大な大地の割れ目から覗くのは冥界の亡者ども。
ひしめき合い、ざわめき合う姿。
その余りにも夥しい数に目が眩みそうだ。
それだけではない! 
亡者どもが発する邪気が生者の魂を欲して地の底に呼び寄せようとする。
凄まじい闇の呼び寄せ声が呑み込まんばかりに迫ってくる。
あの気丈な珊瑚までもが危うく闇に支配されかかった程だ。
鞘の精が結界を張った。
しかし、太陽さえも遮るほどの冥界の邪気が悉(ことごと)く熱を奪うのか?
急激に下がる気温。
氷のように冷たい大気の中、人間達、中でも、幼いりんが寒さに凍える。

「寒いよ、邪見さま・・・・・」

「おい、鞘!」

「何とかならんのか!」

邪見が鞘に喰ってかかる。

「儂の力では、これが限界じゃ・・・・・じゃが、この結界から出たら人間達は間違いなく亡者に呼び寄せ
 られてしまうぞ!」
 
尤も、この結界にしても・・・・どれ程持つか・・・・・。
  

(冗談じゃない! りんに、もしもの事があったら、  儂が殺生丸様に殺される・・・・)

邪見が、内心、主の事を思いながら肝を冷やしていた、丁度、その時、目に入ってきたのは・・・・・・。
 
「あっ!」

「殺生丸様っ」 

「えっ!?」
 
他の者達も頭を上げる。
視界を上方に上げれば、城のあった残骸の辺りで、殺生丸と犬夜叉が、人型の叢雲牙と闘っている。
しかし、相変わらず仲が悪いと言うのか・・・・バラバラの攻撃を仕掛けている。
叢雲牙にとって単体での攻撃など恐れるに値しない。 
寧ろ、闘いを楽しんでいるようだ。
にも拘わらず・・・・犬夜叉も殺生丸も全く協力しようとは考えもしないようだ。
天界を制する天生牙、冥界を制する叢雲牙、人界を制する鉄砕牙、天地人を象徴する三剣が相争う。
天は地を呼び、地は人を呼ぶ。 
相呼応する関係。 
どれ一つ欠けても成り立たぬ世界の理(ことわり)。
その三剣が争う時、大地は震え、海は荒れ狂い、空は黒雲に覆われる。 
天地人が揺れている。
犬夜叉が斬りかかる! 
殺生丸が斬撃に入る! 
ザンッ! ズバッ!! ギンッ!

(貴様にはガッカリだな・・・・・)

叢雲牙が嘲るように殺生丸に言葉を掛ける。

「下種な剣には捨てた腕が相応しい・・・・・」

殺生丸も負けずに言い返す。
闘鬼神を持つ右腕、対するは叢雲牙を持つ左腕、共に殺生丸の腕である。 
何と言う皮肉!
殺生丸の左腕が人型を取るという事は、即ち、そのまま殺生丸の肉体的特性を持つという事に他ならない。
まるで鏡を通して己と闘うような物である。 
己の肉体が、己の意思に反する、何という腹立たしさ  !!
相拮抗する力を持つ者同士が組み合い、押し合う。
周囲の空気すら白熱するような光を帯び始めた。
カアアアァァ・・・・・・

(ふん・・・・貴様に、この叢雲牙を扱う事は出来ん・・・・)

「どけ~~~~~っ!」
 
犬夜叉が割り込んできた。 
グイッ! 力任せに鉄砕牙を振り回す。

「俺が、てめえをブッ壊す!」
 
先程から、ずっとこの調子で全く噛みあわない兄弟の攻撃。

「駄目じゃ・・・・・バラバラに立ち向かっても敵う相手じゃない・・・・」

鞘の精が嘆く。
その言葉に、かごめが動いた。 
破魔の弓矢を携え、結界から飛び出す。
犬夜叉を! 殺生丸を! 石頭の頑固者兄弟を説得する為に。

「犬夜叉―――――っ!」

大きく裂けた大地の割れ目を挟んだ反対側の崖から呼びかける。
「かごめっ!」
 
「殺生丸と一緒に闘ってちょうだい!」

「なっ・・・・・」

「聞いてるの!?殺生丸!」

聞こえているのか聞こえていても無視なのか。
構わず闘い続ける殺生丸。 
響く剣戟の音。

「そうです、殺生丸様! 犬夜叉如き半妖なんぞとつるむ事はありませんぞ!」

この危急存亡の時に余りにもそぐわない邪見の言葉。
当然、皆にボッコボコに殴られる。
バキィッ! ドカッ!

「はうぅ~~~~っ!!」 

馬鹿め! 場の雰囲気を読め! 愚か者!

「殺生丸様、是非、犬夜叉と、ご協力を・・・・・」 

コレだから邪見は、いつも、お仕置きを喰らうのだ。
必死の説得にも耳を貸そうとしない頑固者兄弟。
遂に、かごめの堪忍袋の緒が切れた。
かごめが、狙いを定めて破魔の矢を射る!!
シュン・・・・・シュルルル・・・・・
狙いは過たず叢雲牙の腕に命中した! 
カアア・・・・・

「今だ!」
 
犬夜叉が、そう思ったのもつかの間、速さにおいて、数段、優る殺生丸に先を越される。

「てめえ・・・・」

「きゃ――――っ!」 

かごめが崩れかけた崖に足を取られ落ちそうになっている。

「かごめ!」 

大きく跳んで助けに走る犬夜叉。

「かごめ――――っ!」

「これを持ってろ・・・・少しの間だったら守ってくれる・・・・」
 
鉄砕牙の鞘をかごめに渡す。
ズ・・・・ズ・・・・ズ・・・・・・ズ・・・・・・・・・ズ・・・・・・・・・ズ・・・・・・・・・・・・・

「な、何じゃ!?」
 
七宝が驚いて問い掛ける。

「穴が広がっとるんじゃ!」 

鞘が答える。

「此処も危ないぞ!」 

「じゃが、まだ、かごめと犬夜叉が・・・・・」

そう言っている間にも続く激しい闘い。 
殺生丸と叢雲牙。
ドオン!捲き起こる土煙。
 闘鬼神の刃に疲れが見える。 
通常の刀相手ならば、鉄砕牙にさえ引けを取らない力量を持つ
闘鬼神である。
しかし、流石に、叢雲牙が相手では分が悪い。

「使えぬか・・・・・・」

「でやああっ!」
 
犬夜叉が参戦してきた。
すかさず叢雲牙が獄龍破を放つ!
ゴオォッ!
ガ・・・・ガ・・・・ガ・・・・ゴオォッ! 
弾き飛ばされる犬夜叉。 
獄龍破を鉄砕牙で受け止める。

「ぬおおおお・・・・・・」

「くっ・・・・・・」 

そちらが獄龍破で来るのなら、こちらは爆流破で対抗だ。

「爆流破!」
 
相手の妖気を巻き込み返す犬夜叉の必殺技。 
ゴオォッ! ガ!ガ!ガ!ガ!
互いの技の力が互角なのか・・・・・狙った方向を外される。
ドオン!

(ククク・・・・・中々やるな・・・・・面白い・・・・・・)

余裕綽綽(しゃくしゃく)な叢雲牙。

「クソッ・・・・・外したか・・・・・」 

「犬夜叉・・・・・」 

「ここで待ってろ、必ず戻る!」 

「うん!」

かごめと犬夜叉の間に交わされる言葉。 
強い絆と信頼無くしてはなし得ない、約束の言葉。
大きく跳躍して闘いに戻ろうとする犬夜叉を狙い、叢雲牙が獄龍破を放とうとする。

(ククク・・・・・小僧! これはどうだ!)
 
その叢雲牙を殺生丸が光の妖鞭で止めようとする。 
シュルルル・・・・パシッ!
叢雲牙に捲きつきはするが止められない!

(効かぬ!) 

(獄龍破!) 

ドオン!
犬夜叉が爆流破を放とうとする。
 
「爆流破!」

だが、技の連発で威力が落ちているのかっ!?
獄龍破を止めきれない! ザクッ!
襲い掛かる凄まじい妖気の渦を、鉄砕牙を地面に突き立てる事で凌ごうとする犬夜叉。
ゴオッ・・・・・ゴオォッ・・・・・ゴオオオォォォ・・・・・・・

「・・・・・・ぐ・・・・・・」

「犬夜叉!」
 
かごめが叫ぶ! 
炸裂する光の中、犬夜叉の身を案じて。
闘鬼神が使い物にならぬと見切った殺生丸は、素手で闘い始めている。 
ギン! ギンッ!

(さしもの殺生丸様も素手では分が悪い・・・・・)

手に汗を握りながら主の身を心配する邪見。

「獄龍破の威力って、あんなもんだっけ?」 

刀々斎が、この非常時にも変わらぬ惚けた顔で
疑問を呟く。

(確か・・・・・もっと凄い破壊力だった筈なんだがなぁ・・・・・俺の記憶じゃ。)

「天生牙と鉄砕牙が側にあるからな・・・・・叢雲牙も力を存分に出し切れんのじゃろう・・・・」

鞘の精が説明してやる。 
伊達に七百年もの間、叢雲牙を封印してきた訳ではない。
相呼応する力、それ故にこそ影響しあう三本の剣。
叢雲牙は、それを嫌がり天生牙と鉄砕牙を滅せんとする。
獄龍破を辛くも凌いだ犬夜叉は、何とか崖の縁にしがみついていた。 
もう少しで落ちる処だった。
素手で遣り合っている殺生丸と叢雲牙との間に割り込む犬夜叉。 
ズバッ! ババッ!
叢雲牙が跳び退り(とびすさり)獄龍破を放ってくる。
 
「二人一緒に冥界に送ってやる!」

その時、殺生丸が犬夜叉を押しのけた! グイッ! 

「邪魔だっ!」

兄として弟の疲労を見て取ったのか!?
それとも、唯、単に邪魔だったからか、それは判らない。
獄龍破の妖気の渦に巻き込まれる殺生丸。 
ゴオオォォ・・・・・ 殺生丸は!?
妖気の渦が消え去った後には天生牙を地面に突きたてて獄龍破をやり過ごした兄、殺生丸の姿が!
咄嗟に天生牙の結界で身を守ったのだ。 
周囲の者には兄が弟を庇ったとしか見えない行動。
更に襲い掛かってくる獄龍破。 
犬夜叉も爆流破を放とうとするが疲労のせいなのか!?
爆流破にならない。 
無防備の虚を突かれる犬夜叉。

「!!!」 

ゴオオォ・・・・・・・
妖気の渦に巻き込まれ大地に叩き付けられる。 ドサッ!

「犬夜叉!」 

かごめが叫ぶ!

(フハハハ! 己の無力を思い知ったか、半妖! 殺生丸、次は貴様の番だ!)

勝ち誇ったように笑う叢雲牙。

「・・・・・・・・」
 
その言葉に何を思うか、殺生丸。

「!?」 

その時、聞こえてきたのは紛れもなく弟の声。

「まだ、終わってねえ・・・・」

・・・・・しぶとい奴だ。

「だから・・・・言っただろ・・・・・人間の血を受け継いだ俺は・・・・諦めが悪いんだってな!」

それを聞いた叢雲牙が嘲笑いながら妖気を最大限に集中させ始めた。 
今度こそ息の根を止める為に。

「フハハハ・・・・! ならば、今度こそ引導を渡してやる!」
 
ズ・ズ・・ズ・・ズ・・・ズ・・・ズ・・・・・

「人間の小娘ともども冥界に落ちろ!」
 
カアッ! 一際眩しい光を放ち獄龍破を撃ち込まんとする叢雲牙。

「来やがれ!」 

「何としても爆流破で弾き返す!」
 
迎え撃つ犬夜叉。
固唾を飲んで皆が見守る中、最大出力の獄龍破が放たれた。 
カアアァァ・・・・ゴオォッ!

「いけえぇっ!」
 
犬夜叉も、また、あらん限りの力で爆流破を撃つ! ドオン!

(馬鹿め! 鉄砕牙だけで勝てるものか!) 

爆流破が獄龍破に押されている。 ガ・ガ・ガ・・・・
(貴様が、どう足掻いたところで黄泉の国は、この現世を呑み込むのだ!) 

冥界の扉が更に開く。
ズ・ズ・・ズ・・ズ・・・ズ・・・・亡者」どもが暗い地の底から現世に這い上がらんとしている。

「ゴチャゴチャうるせえ!」 

「俺には守る者がある!」

「だから絶対諦めねえ!」

図らずも異母弟から発された父の問い掛けに答えるような言葉。

「・・・・・・」
 
偶然か・・・?

「?」 

見れば天生牙が、カタカタと震え反応しているではないか。

(お前に守る者はあるか?)

あの日の父の言葉が、今一度、己に問うてくる。

「・・・・・・・・・・」 

・・・・・・・・守る者。
己の脳裏に浮かんでくるのは・・・りんの顔。
必死にりんを庇う邪見の、天生牙を守るりんの姿。

(お前に守る者はあるか?)

・・・・繰り返し己に問い掛けてくる父の言葉。

「守る者だと?」

・・・・・・・この私に守る者があるか?だと。
・・・・守る者など・・・・。
渾身の力を込めて犬夜叉が、再度、爆流破を放たんと気合いを込める。
ドオン!

「この殺生丸に・・・・・守る者など無い!」

同時に殺生丸が蒼龍破を放つ。
爆流破と蒼龍破、兄弟が初めて力を合わせて放った凄まじい衝撃波が、叢雲牙を襲う。

(何っ!?) 

(ぐおおおぉっ!)

ドオッ! ゴオッ! ゴオオオォ・・・・・

「やった!」
 
「・・・・・・・」 

衝撃波の中に呑み込まれ叢雲牙が消滅していく。

(ぐおおお・・・・・)

叢雲牙の断末魔が木霊する。 
冥界から湧き出した黒雲が吸い込まれていく。
ズ・ズ・ズ・・ズ・・ズ・・・ズ・・・ズ・・・・ズ・・・・・・ 
急いで、かごめを迎えに走る犬夜叉。
殺生丸の許には、りんと邪見が駆け付ける。 
・・・・それぞれが守るべき者の許へ。
急速に収束していく冥界の黒雲。
ゴ・ゴ・ゴ・・ゴ・・・ゴオ・・オ・・・・ズウ・・ウ・・・ン
無事な再会を喜び合う犬夜叉と仲間達、殺生丸が見上げた空に光る物が。 
あれは!?

「ありゃ、叢雲牙じゃねえか!?」
 
驚いて犬夜叉が声を上げる。 
殺生丸の左腕も一緒だ。
そのまま地中に落ちていく。

「・・・・・・・・」

それを見ていた殺生丸が、もう用は無いとばかりに背を向けた。
冥界に落ちていく叢雲牙と殺生丸の左腕。 
完全に地の底に叢雲牙と殺生丸の左腕が呑み込まれた。
次の瞬間、眩しい光が地の底から溢れ出した。
思わず目が眩むほどの眩しさ。
その光の中から漂ってきた懐かしい気配に思わず振り返る殺生丸。 
其処には、もう二度と現世で相見(あいまみ)える事は叶わぬと思ってきた
父が、偉大なる大妖怪、闘牙王の姿が!

「!!!」 

(・・・・・父上)

驚きに目を見張る殺生丸。

「お館さまっ!」

刀々斎が、冥加が、鞘が、思わず叫ぶ。 
懐かしさと憧憬を込めて。
犬夜叉が初めて目にする父の顔、父の姿。 
威風堂々たる中にも相手を包み込むような包容力を感じさせる
大きな気の持ち主。
 
(殺生丸・・・・・・犬夜叉・・・・・・・・) 

(・・・・・これで叢雲牙は永久に冥界に封じ込められた・・・・・)

(もう、お前達に言い残す事は無い・・・・・・・)

「親父!」
 
「・・・・父上・・・・」

カアアァ・・・・フッ・・・・光が消えていく。 
今度こそ完全に冥界の扉が閉まったのだ。
 戦いが終わり、鞘が、殺生丸と犬夜叉、かごめやりん、他の仲間達に闘牙王の真情を説明し始めた。

「お館さまは、二人のご子息が必ずや正しい道を選ぶと信じておられたんじゃな」

「どういう事?」

「災いの剣、叢雲牙を葬るには黄泉の国の扉が開いた、その時こそが、唯一の機会・・・・」

「そして、それは、鉄砕牙と天生牙の力を合わせた時に、初めて可能になる・・・・」

「お館様は、そう願っておったのじゃ!」

「ケッ!いい気なもんだぜ・・・・」
 
「くだらん・・・・・」
 
仲が悪い割には同じような反応をする兄弟。
彼らは気付いてもいないのだろう。
自分達が、どれほど似ているのかという事を。
間違いなく同じ父の血を引く兄弟であるのだという事を。 
父の願いに子供達が応える。
それぞれが守るべき者を見出す事を、守るべき者の為に闘う事を願った父の想いを。
どれほど反目しようとも、結果的には、最後の最後に力を合わせ父の願いを叶えた兄と弟。
地を制する剣、叢雲牙が冥界に封ぜられた今、空には太陽」が輝き、大地は静まり返っている。
冥界の剣は冥界に戻った。 
地中を統べる剣は地下深く、眠りについた。
あるべき物が、あるべき場所に収まったのだ。
最後の別れの日、闘牙王が、殺生丸に問い掛けた言葉の答えは、行動で示された。

(お前に守る者はあるか?)

守る者とは?
己が身を盾にしてまでも守りたい者とは?
それは・・・・己が愛する者。
殺生丸が、りんを守るように、犬夜叉が、かごめを守るように、弥勒が珊瑚を守るように。
闘牙王が真に望んだ事は、愛しい我が子達が、愛する者を見出す事。
愛する者を見出した時、それは、真に守るべき者を見つけたという事である。
魂と魂が、惹かれあい、呼び合うような、相呼応する半身に出会う事をこそ望み願った父の心情。
その願いは、此処に叶えられたのである。                 
                                      了

2006.8/12(土)作成◆◆

《第十五作目「呼応」についてのコメント》
 
殺りんに嵌まった【元凶】と言っても良い犬映画第三弾『天下覇道の剣』。
この映画を見なかったら、ここまで嵌まって、禄に触った事も無かったパソコンを弄り、小説を書き出し、ブログを立ち上げる事も無かったでしょう。
そう、全ては、あの映画から始まったのです。
殺りんファンにとっては『バイブル』と呼んでも過言ではない程の影響力を持つ『天下覇道の剣』。
この映画を是非とも小説化してみたい。
そう思い立ち、書き出してはみたものの、最後の落とし処に悩み、タップリ一日、「ああでもない。こうでもない」と悩み、結果的に、上のように結論付けました。

2006.8/13(日)★★★猫目石
 
 
 
 
 
   

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