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『赤心(せきしん)』最終回萌え作品⑧

—曲霊(まがつひ)に連れ去られたりんを取り戻す。
その為に大蜘蛛に変化した奈落の体内に入った。
奈落の体内は見かけ以上に広い。
だが、それも考えてみれば当然かも知れぬ。
以前の奈落は、一見、ごく普通の人間に見えた。
しかし、実際には何十体もの妖怪を、その身の内に取り込んでいた。
何しろ、奴の臭いときたら・・・・。
雑魚妖怪どもの臭いが綯い交ぜになった形容しがたい悪臭だったからな。
そして、今や、四魂の玉を使った奈落は以前とは比べ物にならぬ。
恐らくは体内に幾千、いや、幾万もの妖怪を取り込んでいるのだろう。
夢幻の白夜が云っていたように、りんが奈落の体内に居るだろう事は間違いない。
極々、微かだが、りんの匂いがするのだ。
だが、場所を特定できない。
余りに微弱過ぎて。
不意に嗅ぎ覚えのある匂いが飛び込んできた。
真新しい血の匂いと共に。
女が倒れていた。
いつも半妖の弟と一緒に居るあの女、かごめとか云ったか。
致命傷ではないが右腕から出血している。
匂いから推測するに、犬夜叉の爪にやられたようだな。
半妖め、奈落の邪気に呑み込まれたか。
己が女を傷つけるとは。
血の匂いに引き寄せられたのだろう。
雑魚妖怪どもが倒れた女の周囲に集まって襲いかかろうとしている。
チッ、仕方がない。
捨て置く訳にもいかん。
女が気が付くまで雑魚どもを払ってやった。
暫くして女が目を開けた。
後は留まるなり付いて来るなり好きにするがいい。
先に足を進める。
そんな私をからかっている積りなのか。
奈落め、りんの幻をアチコチで見せおって。
この殺生丸が何の匂いもせぬ幻影などに惑わされるか。
その時、急に、りんの匂いが!
まるで器の蓋(ふた)を開けたかのように匂ってきた。
感じる! 近い!
然も、りんの側には犬夜叉の匂いがする。
それも奴の匂いから判断すると完全に妖怪化した状態だ。
以前、朴仙翁に聞いた話が脳裏に蘇る。
半妖の犬夜叉は妖怪化すると心を失う。
強すぎる妖怪の血に心を喰われるのだ。
事実、犬夜叉は嘗て鉄砕牙を手離したせいで妖怪化した事がある。
半妖め、唯々、闘うだけの化け物に成り下がっておった。
あの時は、ワザワザ、私が足を運び奴を止めに行ったが。
それを思えば一刻も早く現場へ急行せねば!
犬夜叉の女をワザワザ抱きかかえてやる積もりなど毛頭ない。
付いて来る気なら毛皮に掴まれ。
女に一声かけ、一気に飛ぶ。

「飛ばすぞ」

見えた!
りん、無事か!?
私を見て名前を呼ぼうとしたりん。
さぞかし怖ろしい思いをしたのだろう。
涙が滲む目元が痛々しい。
だが、次の瞬間、りんの足元はめり込み小さな身体を呑み込んでいく。
ズブズブ・・・ズッ・・・
最後に残ったりんの右手。
その前に妖怪化した犬夜叉が立ちはだかる。
完全に見えなくなった。
クッ、何という事だ!
・・・・あと僅かで間に合ったものを。
奈落め、許さぬ。
これも奴の企みの一環なのだろう。
わざと、りんの匂いを漏らして私を誘い妖怪化した犬夜叉と闘わせる。
そして自分は一人、高みの見物か。
己が手を下さず他者を操る。
二重三重の罠を張り獲物を待ち構える。
如何にも蜘蛛の化身に相応しい性(さが)だな。
匂いから察していたが犬夜叉には曲霊が憑依していた。
犬夜叉を通してさえ透かし見える邪悪な霊体。
妖怪化した犬夜叉が鉄砕牙を抜き放った。
良かろう、相手をしてやる。
天生牙を抜き放つ。

「犬夜叉ごと、たたき斬ってくれる!」

鉄砕牙の刀身が黒く変化した。
冥道残月破を撃つ積もりか。
それを見たかごめが、犬夜叉を必死に止める。

「やめて、犬夜叉!」

冥道残月破の軌道が大幅にずれた。
(わざと・・・狙いをはずした・・・?)
どうやら鉄砕牙が犬夜叉の最後の理性を支えているらしい。
それに逸早く気付いたのだろう。
奈落め、下から触手で犬夜叉を突き上げ鉄砕牙を取り上げた。
そして犬夜叉を掴んだまま肉塊の中に突っ込んでいった。
ともかく、犬夜叉をあのままにはしておけぬ。
残された鉄砕牙をかごめに拾わせ犬夜叉と曲霊を追う。
肉塊の中から漂ってくる曲霊と犬夜叉の臭い。
りんを未だ救出していない以上、爆砕牙は封じておくしかない。
爪で肉塊を抉りだす。
ドガッ!ドガッ!
(抜けた!?)
突破口から出た瞬間、犬夜叉が襲い掛かってきた。
鋭い爪の一撃。
軽く身を躱(かわ)し、かごめに指示する。

「ここにいろ! 闘いの邪魔だ!」

弟の分際で兄に爪を向けるとは。
仕置きの鉄拳だ。
バキ!
互いに一歩も退かぬ攻防。
爪と爪の応酬。
ガガッ!
右の袂(たもと)が小さく裂けた。
ビッ・・・
犬夜叉め、流石に身も心も妖怪化しているだけあって歯ごたえがある。
兄弟同士、闘えば奈落の思う壷(つぼ)・・・か。
先程のかごめの台詞だ。
だが、このまま手心を加えて闘っても埒(らち)が明かぬ。
一気に片を付けるしかあるまい。
天生牙を抜き放ち向かってくる犬夜叉に振るう。
しかし、何とした事か。
犬夜叉め、天生牙の刃(やいば)を素手で止めおった。
曲霊めが、賢(さか)しらにほざきおって。
犬夜叉の体内に奴が留まっている限り天生牙では斬れぬとな。
その上、有ろう事か、天生牙の刃を折るなどと!
断じて許さぬ! そのような事!
ダンッ! ダダッ・・・
強く踏み込み犬夜叉を追い詰める。
力と力の押し合いだ。
ググ・・・・
睨み合い押し合う我ら兄弟。
そんな時、あの女が動いた。
鉄砕牙を犬夜叉に渡そうとしたのだ。
安全な穴から足場の悪い外へ出てきた。
案の定、滑り落ちかけた。

「馬鹿が!」

しかし、あの女、右手に持った鉄砕牙を肉塊に突き刺し己が身を支えた。
ガガッ・・・ガガガ・・・
肉塊を引き裂きながら降りてくる。
負傷した右腕から漂ってくる真新しい血の匂い。
傷口が開いたのだろう。

「犬夜叉、負けないで!」
「犬夜叉————っ!」

必死に犬夜叉に呼びかけるかごめを嘲る曲霊。
だが、奈落は、このままでは、かごめの叫びが犬夜叉の心を呼び覚ますと思ったのだろう。
ドンッ!
奈落が、肉塊を触手に変化させ、かごめを突き落とした。
落ちていくかごめと鉄砕牙。

「ちっ!」

手間の掛かる女だ。
見捨てる訳にもいかん。
その時、犬夜叉が逸早く動いた。
天生牙から手を離し女を追いかけたのだ。
何と、鉄砕牙の助けなしに曲霊の呪縛から逃れたのか!?
落ちていく女を犬夜叉が助け上げた。
鉄砕牙は、そのまま落下していく。
曲霊は犬夜叉から完全に離れた訳ではない。
未だ憑依している。
油断は出来ん。
奴が犬夜叉から離れる一瞬の隙を衝かねば。
曲霊が犬夜叉から女に移ろうとしている。

「離れろ!」

犬夜叉が曲霊の意図に気付き女から離れた。
だが、曲霊の一部は女に移ってしまった。
どうする?
天生牙を抜き放ったものの、瞬時、私は逡巡した。
だが、刹那の時、天は我らに味方した。
イヤ、天よりも父上の加護であろう。
鉄砕牙が、犬夜叉を目指して戻ってきたのだ。
バシ!
鉄砕牙を掴む犬夜叉。
犬夜叉が掴んだと同時に鉄砕牙が変化した。
刀身全体に浮かび上がる竜の鱗。
竜麟の鉄砕牙だ。
鉄砕牙が変化した途端、女に乗り移っていた曲霊が犬夜叉の方に引き寄せられていく。
更に犬夜叉の身体からも押し出される曲霊。
どうやら犬夜叉の妖穴が曲霊を捕らえているようだ。
釘付けにされ身動きもままならぬ曲霊。
散々、てこずらせてくれたが、最早、逃げも隠れも出来まい。

(これで終わりだ、曲霊!)

天生牙を一閃。
ザン!
邪悪な霊体が掻き消えていく。
曲霊は滅びた。
もう此処に用はない。
匂いが、りんの匂いが手に取るように鮮明に判る。
まるで霧が取り払われたかのように。
成る程、かごめの霊力・・・とやらが奈落の邪気を払っているのか。
先を急ぐ私の前に硬化した触手が現れ前を塞ぐ。
バキバキ!
触手を破壊しようと爪を振るった。
バキッ! ジュ~~~
しかし、これまでとは明らかに違う。
今までとは段違いに強い瘴気。
逆に私の手が爛(ただ)れてしまった。
だが、これでハッキリした。
奈落が形振り構っていられなくなった事がな。
この程度で私を止められると思うのか。
甘いぞ、奈落。
貴様は曲霊ではない。
如何に四魂の玉で強化していようと貴様の瘴気如きに私が負けると思うのか。
殺生丸は瘴気に対し毒華爪で対抗。
道を切り開いていった。
そして漸くりんの居場所に辿り着いた果てに見たのは・・・・。
退治屋の女が、りんを、奈落の幻ごと飛来骨で打ち砕かんとする瞬間。
間に合わぬ!と思った刹那、奈落の体内が大きく揺らいだ。
りんを抱いていた幻の奈落は跡形もなく消え失せた。
飛来骨の軌道から僅かにズレたせいで、りんはかすり傷ひとつ負わなかった。
まだ気絶しているようだ。
落下していくりんは阿吽に乗った琥珀が首尾よく助けた。
自分が引き裂こうとしていた奈落が幻と知り呆然とする退治屋の女。
琥珀の姉、確か珊瑚とか云ったな。
飛来骨なる武器を投げ返す。
女の近くを通り抜け夢幻の白夜をかすめて肉壁を抉り止(とど)まった飛来骨。
奈落の幻影は分身の夢幻の白夜が見せていたようだ。
先程の大きな衝撃と共に吹き飛んだ白夜の左肩と左腕。
分身である白夜が、この惨状だ。
恐らく本体の奈落も同じように負傷しているのだろう。
夢幻の白夜は捨て台詞とともに逃げていった。
奈落の分身になど用はない。
そのまま見逃してやる。
だが、退治屋の女、貴様は見逃す訳にはいかん。
さて、どうしてくれよう。
恋々と命乞いなどしようものなら即座に引き裂いてくれる。
だが、あの女は潔く己の罪を認めた。
申し開きも命乞いも一切せずに。
願ったのは唯ひとつ。
奈落に掛けられた法師の風穴の呪い、その呪いが解けるまでの猶予。
死を覚悟した者の目。
良いだろう、見せてもらうぞ、貴様の覚悟の程。
ドン! バキバキ!
アチコチで破綻を来たし始めた奈落の体内。
バキバキ! ザア・・・・
薄暗い奈落の体内に光が漏れてきた。
臭いが変わった。
光の方向に・・・奈落の本体がいる!
今は、この女に構っている暇はない。
先を急ぐ。
りんが目を覚ましたようだ。

「殺生丸さま!」

私を見て喜ぶ気配が背後から伝わってくる。
心の底から思う。
・・・・りん、お前が無事で良かった。
もし、お前が、かすり傷ひとつでも負っていたら・・・。
私は、その場で、あの女を、退治屋を引き裂いていただろう。
例え、それが奈落の思う壷(つぼ)であったとしても。
ゴボッ! ジュ————ッ
瘴気が破れた肉壁から溢れ出してきた。
スッ・・・退治屋の女が、りんに防毒面を被せた。

「りん・・・ごめんね・・・」

謝罪の積もりなのだろう。
己の防毒面をりんに渡し奈落の許へと向かう女。
益々、強くなる瘴気の中、防毒面なしで奈落の許へ向かう。
それは、即ち、自殺行為に等しい。
「生きて戻らぬ!」
正しく決死の覚悟の顕(あらわ)れ。
(命懸け・・・・か)
殺生丸は心の内で裁定を下した。

———『お咎めなし』———

見せてもらったぞ、退治屋、貴様の赤心。          了



【赤心(せきしん)】=いつわりのない心。真心。誠意。赤誠。



《第五十四作目『赤心(せきしん)』のコメント》

曲霊に連れ去られたりんちゃんを救出すべく、単身、奈落の体内に乗り込む兄上。
作中のかごめの台詞から判るように、りんちゃんは兄上に取って『何よりも大切な存在』と認識されています。
という事は、犬一行の面々も、当然、そのように認識している訳です。
奈落の幻もろ共、りんちゃんを犠牲にしようとした珊瑚。
だからこそ、珊瑚は、兄上に殺される事を覚悟しました。
しかし、最終回では三人の子供を産み育てている元気な珊瑚が登場しています。
あれを見ただけで兄上が珊瑚に『お咎めなし』の裁定を下した事が判ります。
でも、其処に到るまでの兄上の心理は、殆ど、描写されていません。
僭越ながら、その兄上の心理描写を、私、こと、猫目石が推測して書かせて頂きました。
実際には、りんちゃんを人里へ預ける経緯とともに書くべきなのでしょうが・・・・。
こちらの方は、恥ずかしながら、全く構想がまとまっていない状態です。
その為、最終決戦半ばまでの描写となっております。

この作品に対する感想や今後の要望などございましたら、遠慮なく拍手かメールフォームにて仰って下さいませ。
御訪問、まことに有難うございました。

                                 
2008.10.30(木) ◆◆猫目石

 

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