邪見の花畑 さえずる鳥の声、眩しい陽射し、わしは、今、見渡すばかりの花畑に居る。 白い花が咲き乱れ、清らかな水の流れる美しい川。 何と気持ちの良い場所であろう。 でも、何故か、わし一人だけなのじゃ。 殺生丸様は? りんの奴は? 阿吽は何処に居るのじゃ? そう思って、辺りを見回すと・・・・・。 オウオウッ! いらっしゃった。 いらっしゃった。 殺生丸様が、いつもの典雅な装いでスッキリと佇んでおられる。 クウゥ~~~ッ! 何時、見ても何と麗しい御方なのじゃ。 その上、『戦国最強の大妖怪』の名をも欲しいままにされる強さ。 血筋といい、見目形の美しさといい、我が永遠の主、殺生丸様の右に出る者は居らんわ。 「殺生丸様ぁ~~~っ!」 お側に寄ると、殺生丸様が、わしの方をご覧になって・・・・。 「邪見、何処に行っていたのだ。私の側を離れてはならぬ。」 それは、それは、優しい御言葉を掛けて下さったのだ。 こっ、この邪見、お側に仕えて此の方、こんな優しい言葉を掛けて頂いた事は、今まで一度も無い! 驚きの余り、つい間抜けにも、ポカンと口を開けたまま殺生丸様を見上げてしまったのじゃ。 「どうした、邪見、何を驚いている。」 「いっ、いえ、とんでも御座いません!」 「いつも、お前には辛く当たっているが、あれは、私の本意ではない。」 「・・・・・殺生丸様。」 「それどころか、お前には感謝しているのだ。これからも、今までのように、誠心誠意、仕えてくれ。」 「せっ、殺生丸様ぁ~~っ」 殺生丸様が、この邪見めの苦労を汲み取って下さるとはっ! ウウッ・・・・邪見、嬉しゅう御座います。 感激して喜びの涙を滂沱と流し・・・流し・・・流し・・て・・・・? ビシャ――――――ッ 何?何が起きたのじゃ? 「ア~~ッ、邪見さま、気が付いた!」 慌てて跳び上がって見れば、りんが、素っ裸で蕗の葉を持って立っているではないか。 阿吽も側に来て、心配そうに、わしの様子を窺っておる。 りんが、蕗の葉に水を汲んで、わしに掛けたらしい。 どうやら、気絶しておったみたいじゃのう。 ブルルルッ、頭を振って周囲を見渡せば、殺生丸様は、木陰で涼んでおられる。 ハッ、思い出した!わしは、殺生丸様に滝壺に放り込まれたのじゃ。 カナヅチである、わしは、当然、溺れそうになって・・・・。 では、あの花園は・・・・あの川は・・・・三途の川かっ! そして、現実では有り得ないような、あの、優しげな殺生丸様は・・・・あの世の使いかっ! ゾゾゾォ~~~~~~~ッ わっ、わしは、危うく、あの世に行く処だったのじゃ~~っ! お終い 後書き::内心、ゲラゲラ笑いながら、この作品を書き上げました。現実には有り得ない、邪見に優しい殺生丸。要は、邪見の願望その物なのですよね。 きっと、原作の邪見も似たような事を、常日頃、考えているに違いありません。 書いてて凄く楽しかったです。 [1回]PR