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モゾッ・・・ズッ・・ズズッ・・・体内で蠢(うごめ)く有象無象の気配。
身の内に取り込んだ何十、何百とも知れぬ妖怪どもが表面に出ようともがいているのだ。
ピシッ、バリッ・・・人払いした薄暗い部屋の中、端整な容貌の青年の右腕が変化した。
浮かび出てきたのは異形の腕だった。
鋭い爪が覗く赤黒い皮膚のおぞましい鬼のような腕。
それを青年は驚きもせずに眺めグッと握りこみ封じ込める。
フッ・・・鬼の腕が引っ込んだ。
青年の意思のままに。
男にしては色の白い、だがスンナリと筋肉のついた綺麗な腕が見える。
(アレを出して以来、頻繁に出て来ようとする)
(フン・・・まだ鬼蜘蛛とは縁が切れんようだな)
周囲の者達には城主の人見蔭刀(ひとみかげわき)として認識されている人物、奈落は、内心、自嘲するように呟いた。
つい先日、奈落は、ある肉塊を生み出した、イヤ、切り離した。
奈落に取って最も忌まわしい鬼蜘蛛の意識を持つ肉塊を。
鬼蜘蛛、五十年前、巫女である桔梗に浅ましい想いを抱いた野盗。
四魂の玉を餌にして男の魂を繋ぎに使い数多(あまた)の妖怪が合体して生まれたのが半妖の奈落だ。
誕生したばかりの奈落は鬼蜘蛛の執着を利用した。
嫉妬に狂う男が桔梗を殺すように仕向けたのだ。
事は思惑通りに進んだ。
桔梗は深手を負って死に、恋仇の犬夜叉も封印された。
だが、誤算が生じた。
肝心の四魂の玉が桔梗とともに消え失せてしまったのだ。
それ以後、鬼蜘蛛の意識は眠りについた。
魂までも引き換えにして望んだ桔梗の死に絶望したのか。
不意に今まで眠り込んでいた鬼蜘蛛の意識が目覚めた。
死んだ筈の桔梗が甦ったことに気付いたのか。
何度、桔梗を殺そうとしても出来ないのだ。
体が、否、心が、それを受け入れようとしない。
あの薄汚い野盗の意識が己の意思に頑強に抵抗する。
だから、切り離した。
この奈落から。
その結果が、こうだ。
体内に巣喰う妖怪どもが、ザワザワと蠢(うごめ)き這い出てこようとする。
気を許せば今にも体外に飛び出しかねない。
鬼蜘蛛の桔梗への執着、妖怪には有るまじき人間の凄まじい情念こそが妖怪どもを押さえ付けてきたのだ。
(まだ早かったか。もう一度、奴をこの身に取り込まねばならんな)
鬼蜘蛛の肉塊を体外に排出してからズッと監視は続けてきた。
旅の修行僧の顔を奪い無双と名乗っているらしい。
(ククッ・・・期せずして見栄えの良い顔を選んだようだな)
予測違(たが)わず無双は犬夜叉達と接触した。
どう足掻こうが宿怨(しゅくえん)が互いを引き寄せあうのだ。
最猛勝(さいみょうしょう)を供に奈落は鬼蜘蛛改め無双の許へと急いだ。
浅ましくも薄汚い欲に塗(まみ)れた人間の魂を、再度、体内に取り込む為に。
了
【宿怨(しゅくえん)】:前々からの怨み。