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『邪見の僕(しもべ)日記⑥』

お仕置き主従



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


ワシを、いや、宴に参加していた全員の度肝を抜いた御母堂さまの余興。
それはな、まず不思議な鏡と三つ目の黒牛の登場から始まるのじゃ。
小山のように大きな体躯の癖に妙にすっ呆(とぼ)けた感じの目の牛のな。
はて、あの三つ目の黒牛、どこぞで見たような覚えが・・・。
ああっ、おっ、思い出したっ! あ奴じゃ!
殺生丸さまを何度も虚仮(こけ)にしおった刀鍛治の刀々斎。
彼奴(きゃつ)の飼い犬ならぬ飼い牛と瓜二つではないか。
あの牛、確か・・・『猛々(もうもう)』とかいったな。
飼い主自身が惚(とぼ)けてるせいだろうか。
飼い牛の名前まで、ふざけておる。
モ~~モ~~鳴くから『猛々(もうもう)』ってか。
まあいい、話を続けるぞ。
御母堂さまの牛車を牽(ひ)いてきた牛は『凱風(がいふう)』というそうな。
ウム、流石に御母堂さまじゃ、飼い牛の名前まで格調高いわ。
(ここで、さりげな~く御母堂さまを持ち上げ胡麻を擂(す)る邪見であった)
凱風号の方が、刀々斎の飼い牛の『猛々』より一回り以上、身体が大きいんだがな。
だが、あの艶々(つやつや)した真っ黒な毛並みといい三つ目といいソックリじゃ。
恐らく、あの二匹は、兄弟か、あるいは従兄弟だろう。
あれだけ瓜二つなんじゃ。
どこかで血が繋がっておるのは間違いなかろう。
牛の話はもういい、話を戻すぞ。
御母堂さまに付き従ってきた女房衆が物々しく運んできた、あの大型の鏡。
あれはな“遠見の鏡”といって西国の国宝らしい。
本来ならば西国城の宝物庫に納められるような代物なんだそうじゃ。
だが、『宝の持ち腐れ』という御母堂さまの鶴のひと声で蔵から出されたと聞いた。
いかにも、御母堂さまらしい言動じゃわい。
そして、以後、ズッと御母堂さまの居城、天空の城に安置されておったそうじゃ。
そんな鏡を、わざわざ、ここに運び込んだということは・・・。
アレコレ考えてみたんじゃが、ウ~~~ン、さっぱり見当がつかん、判らんかった。
鏡なんじゃから何かを見るのは間違いなかろうがな。
仕方がないので、とりあえず、ジッと目を凝(こ)らして成り行きを見ておったんじゃ。
するとな、闇を切り裂くように響き亘(わた)る牛の嘶(いなな)きが。
 

ブモォ~~~~~~~~~~~~~!
 

凱風号が、一声、夜空に向かい大きく嘶(いなな)いたかと思いきや、三つ目をカッと光らせたんじゃ。
通常の両目は前方に置かれた“遠見の鏡”を照らし、額にある第三の目、所謂(いわゆる)“天眼”はな、両目に映った映像を月のない宵闇に投影しておった。
まあ、手っ取り早くいうとだな、“遠見の鏡”の映像を増幅拡大して夜空に映写しておった訳じゃ。
意表を衝くド派手な演出に、正直な話、吃驚(びっくり)じゃったが、映し出された映像には、もっと驚かされた。
ワシャ、もう、目の玉が飛び出しそうじゃったわ。
それはな、忘れもしない三年前、『りん』が失踪した年の春、花見をした時の映像だったんじゃ。
『りん』が着ている桃色の小袖、あれは、かごめが戻ってきた年に贈った物じゃから間違いない。
楓の家から少し離れた場所に生えている桜の古木を見に行ったんじゃ。
うららかな春の陽射し、側を流れていた小川のせせらぎ、古木の根元に腰掛ける殺生丸さま、舞い散る花びらを手に受け止めようとする『りん』、それを嗜(たしな)めるワシ、今、思い返してみても何と穏やかで平和な日々であったことか。
当時の感傷に浸(ひた)る間もなく、突然、映像が切り換わった。
ヒラヒラと舞い飛ぶ二匹の蝶を『りん』が追いかけておる。
鮮やかな翅(はね)の蝶は、先程、見た豺牙の娘、由羅が扇から出した蝶と全く同じじゃった。
赤、青、黄、黒、白の原色、それに他者を幻惑するような目の模様、ここまで特徴が似れば、もう間違いない。
『りん』の失踪には豺牙が絡んでおる。
不意に『りん』の前から蝶が消えた。
それと同時に激しく雨が降り出したではないか。
通常の降り様ではない。
文字通り、天から雨が滝のように降り注いだのじゃ
あっという間にズブ濡れになってしまった『りん』。
そこへ見るからに怪しい風体(ふうてい)の妖怪が現われおった。
そ奴こそが、『りん』を襲った下手人(げしゅにん)、毒蛾の蛾々だったのじゃ。


※『邪見の僕(しもべ)日記⑦』に続く

 

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