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『邪見の僕(しもべ)日記③』



ワシは、それを聞いて居ても立ってもおられんくなってな。
不躾(ぶしつけ)ながら、その客の話の中に割って入り詳細を聞き出したのじゃ。
それは、もう、『微に入り細を穿(うが)つ』ほど入念に。
早速、殺生丸さまに、その事を御報告申し上げたら、大層、驚かれてな。
僅(わず)かながら目を見開かれたのだ、無表情は変わらん。
直ぐにも、その方士に会いたいと仰(おお)せになってな。
うむうむ、殺生丸さまのお気持ちは良~~~く解る、痛いほどに。
例え魂だけとはいえ『りん』に逢いたいんじゃろうな。
斯(か)くなる上は『善は急げ』じゃ!
早速、殺生丸さまと共に、その“反魂香”なる不思議の術を操る方士の家へ訪ねていったのじゃ。
探し当てた方士の家は下町の寂れた裏通りにあった。
世にも稀な“反魂香”を扱う方士は・・・随分と小柄だった。
じゃがっ、くう~~~っ、それでもワシより大きい!
名は確か方斎とか申したな。
全体的にフックラと丸い感じの容貌が如何にも本性の梟(ふくろう)を思わせる男じゃった。
白髪に覆われた大きな丸い頭部、ギョロッとした丸い大きな目、そんな方斎の容姿は妙に愛嬌があった。
もし『りん』が側に居たら「かわいい」とか喚(わめ)いて撫で繰り回していたのではないか。
うっ、羨(うら)ましくなんかないぞ、ワシは!
むっ、話が脱線したな、元に戻すぞ。
最初、方斎は、いきなり訪ねてきたワシ等を小さく開けた扉の後ろから大きな目で胡散(うさん)臭そうに睨み品定めしておった。
押し込み強盗とでも勘違いしたのかも知れん。
あの辺りは余り治安が良いとはいえん地区じゃからな。
方斎が警戒するのも仕方あるまい。
そこへ持ってきて殺生丸さまが金貨を詰めた袋を部屋の中に投げ付けたりするもんじゃから方斎が臍(へそ)を曲げてしまってのう。
ワシャ、只管(ひたすら)、方斎に頭を下げ謙(へりくだ)って方斎の機嫌を取り結んだんじゃ。
主のしでかした無礼(ぶれい)は従者たるワシが償わねばならん。
何としても“反魂香”の術を行ってもらわねばならんかったからな。
うむ、ワシって従者の鑑(かがみ)!
さてさて、ワシの必死の説得が功を奏したのじゃろう。
方斎はこころよく頼みを聞いてくれてな。
“反魂香”の術を行使してくれたのじゃ。
それも“反魂香”が奇術か手品の類ではないかという殺生丸さまの疑いを晴らす為、まずワシの亡き母親を召喚するという手間をかけてな。
あれには驚いた。
まさか、我が母、阿邪(あじゃ)に逢えるとは予想もせなんだわい。
何しろ三百年も前に死に別れたきりじゃからの。
もう、顔も忘れかけておったわ。
じゃが、あの威勢のよい怒鳴り声だけは忘れらようにも忘れられない。
懐かしい・・・生きてた頃は何かにつけ邪聞(じゃもん)父者(ちちじゃ)と一緒に叱られど突かれておったものじゃ。
ううっ、思い出しただけで痛くて涙が・・・。
“反魂香”で呼び出された母者(ははじゃ)は昔とちっとも変わってなかった。
現われるなり、髪を、いや鬘(かつら)を振り乱してワシを引っ叩(ぱた)いたんじゃ。
ワシの母者は、生前、鬘(かつら)を愛用しておった。
でないと父者と見分けがつかんかったからな。
何しろ殆ど同じ顔に背丈じゃ。
母者は、あの鬘(かつら)を甚(いた)く気に入っておったんじゃが・・・。
頭に引っ掛かるところが無いせいで(つるっ禿(ぱ)げ)鬘(かつら)がズレるのはしょっちゅうでな。
酷い時は鬘(かつら)が吹っ飛んでおった。
そういう時はな、絶対に鬘(かつら)の「か」の字も云ってはならん。
何が何でも知らん振りをするんじゃ。
でないと、母者にどんなお仕置きをされることか。
そっ、それにしても、ひょえ~~~~~っ、おっ、驚いた!
“反魂香”とは実体まで伴う術なのか。
ビシッ! バシッ! ドカッ! ポカスカ!
小気味よくワシを殴る母者。
いっ、痛い、あたたたたたたたたたたたたたたたたたた・・・。
三百年ぶりの“愛の折檻(せっかん)”じゃな。
母者の愛が激しすぎてワシは気絶してしもうた。
気が付いた時、ワシは床に寝そべっておった。
ソッと薄目を開いて周囲の様子を窺うとな、方斎が何やら占っておった。
ジャッ、ジャッ、ジャッ、パチッ、ジャッ、ジャッジャッ、パチッ
筮竹(ぜいちく)と算木(さんぎ)を使うところから察して易占じゃな。
問筮(もんぜい)の辞(ことば)、つまり占いの文句を聞いておったらな、どうやら『りん』の生死について占っておるようじゃった。
ゴクリ・・・ワシは生唾(なまつば)を飲み込んだ。
そして全神経を集中して結果を聞こうと耳を欹(そばだ)てたんじゃ。
 


※『邪見の僕(しもべ)日記④』に続く


 

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